平日のバリューランチは550円。by『私の居場所』

小説『私の居場所』1話目

【平日のバリューランチは550円】


駅から離れた地元のマクドナルド。


昼頃には子連れのお母さんたちでにぎわっていた。


「自分は浮いた存在だな。」

と自分を顧みたが、私以外の誰も私のことなど気にかけている人はいなかっただろう。


「あの辺にしようか。」

自分の座る席に目星をつけたくらいに、私の注文の出番が回ってきた。


平日昼間のバリューランチは少しお得な値段らしかった。


さほど食べたい気持ちもなかったけれど、ただ単に安いメニューで済ませることに少しばかりの罪悪感やうしろめたさを感じて、結局私はセットメニューを注文した。


「620円になります。」


550円のお得価格の表示を見てそれを頼んだはずなのに、どういうわけか通常価格を請求された。


平日昼間14時まではお得価格が適用されるという注意書きもちゃんとある。時刻13時42分。今日は平日の火曜日。祝日ではない。なぜ?


「あのこれ、550円じゃないんですか?」


心の中で強く主張した。その思いが届いてほしいと思ったけれど、伝わることはなかった。


電子マネーで支払いを済ませる。


・・・


「きっと僕が何かを見落としているんだ。今はもう、620円の時間なのだろう。自分の勘違いだ。」


店員さんに物申そうとする自分を無理やりに押し込め、納得させるために、そうやって自分に言い聞かせた。


いや、本当はきっとそうじゃない。


恥ずかしかっただけだ。


28歳で定職につかず、平日の昼間に居場所を求めてマクドナルドに助けを求めた私がたったの70円のために自己主張するところを見て、子どもたちと遊びに来た奥様方はどんな哀れみの目をするのかを想像すると、とてもそんなことのために店員さんに問いかけることはできなかったのだ。


だから僕のその時の不服な気持ちは、少しも後を引きずることなく消え去った。


続く。


ゆたか


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