暖かさがこの瞬間を主管している。
『 冬のある日のこと。 』
隅っこに座ることをやめて
真ん中のあたりに腰かけた
ドアが開く度に足元を冷たくする冬風が通り抜けていって
少しからだを縮こませた
西陽が差し込む午後4時過ぎの電車内は暖かな色で満たされていて
それが一層安心感も平安も
そして眠気も僕たちに運んできているようだった
窓越しに見える一軒家もアパートもマンションも木々も
すべてが暖かさに包まれた色をしていた
誰も喋ることはない
みんなきっと
一日のうちのこの時間を何よりも大切にしたいと思っているんじゃないか
と思うくらい
口を開くことも
特別な音を立てることもしない
だけど
この状況でもし高校生が
少し大きめの声で笑いながら喋っていたとしても
それはそれできっと
この雰囲気の一部として認められてしまうのだろうと思った
そのくらい暖かさの色は
いまこの瞬間のここにあるすべてを主管していることを認めないわけにはいかなかった
「どうしてこんなに?」
と思ってしまうほど
座席は熱くて
それが僕の熟睡を助けてくれたことが何度もあった
多くの住宅の向こう側に
田んぼの向こう側に
地平線の向こう側に
いよいよ沈んでしまうのかというときほど
一層西陽は橙色になって
世界に平安をもたらした
YUTAKA.
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